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風はウエルネス

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記憶と語る

なんの脈絡もなく突然幼い頃の記憶がよみがえってくる、そんな体験が、あなたにはありませんか?それは例えば古いふるい映画の一シーンであったり、冬の朝の通学路で雪だまをぶつけられた痛さであったり、父親と入ったトンカツ屋さんの油脂の匂いだったりするのですから不思議です。
若き日のユーラシア大陸放浪記「深夜特急」で知られる作家沢木耕太郎氏が近著「無名」で、在りし日の老父との断片的な思い出を軸に据えて、息子から父親への情愛を実にしみじみと綴っています。離れ離れの暮らし、淡々と過ぎて来た父子の関係が、突如来た老父の衰え、それから始まった介護や看取りの日々で一気に濃密になり、その過程で父に関わる懐かしい思い出が次々とよみがえってくる。その断片、断片が老父の当時の心象、息子への思いを解き明かす鍵になり、父という最も身近な人間を再認識するよすがとなる。未整理のままだった情報が、記憶という形で過去のひとコマ、大切な人の真情を鮮やかに浮上させてくれる。
敬老の日。百歳以上が全国に2万人、の報道に感嘆しながら、父や母との思い出を指折ってたずねてみました。父と見た映画は?二人で酒を飲んだのは?父に抱かれたことは?母に手を引かれて歩いたあの道はどこへ?時間を逆行し、セピア色の懐かしさに包まれる、ちょっと不可思議な味わいでした。(寅吉)